冠動脈バイパス手術

冠動脈バイパス手術

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っています。心臓から全身に充分な血液を送り出すためには、(冠動脈・・・から心筋へ酸素と栄養を流す必要があります)(心筋は冠動脈から酸素と栄養を供給してもらう必要がある)(冠動脈を通して心筋へ酸素と栄養を供給する必要があります)。その心臓は、冠動脈(右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝)という心臓の表面を走行する血管から心臓の筋肉(心筋)へ酸素と栄養分が流れることによって全身に充分な血液を送り出すことができます。

狭心症は、動脈硬化などが原因で冠動脈が狭くなり、血流量が減少するため、心筋に充分な酸素や栄養が流れなくなることで、心臓が不充分な血流で働かなくてはならなくなるため、胸痛(数分から15分程度の持続時間)などを引き起こす病気です。狭心症は、労作性狭心症(安定狭心症)や不安定狭心症などに分類されます。

I. 労作性狭心症 ( 安定狭心症 ) : 労作時 ( 坂道や階段の昇降時、重いものを持った時、運動時など ) に、胸痛や胸部圧迫感などを生じるタイプの狭心症です。

II. 不安定狭心症 : 安定狭心症よりも胸痛の程度が強く、胸痛発作が頻回に起き、軽い労作や安静時にも胸痛が生じるタイプの狭心症です。不安定狭心症の方が心筋梗塞となる可能性が高いといわれています。

心筋梗塞は、冠動脈が完全に詰まり、その先の心筋に酸素や栄養が流れなくなるため、心筋が壊死してしまいます。そのため、30分以上持続する胸痛や死に至るような不整脈が生じたり、心臓のポンプとしての働きの低下や、突然死の原因となる病気です。
狭心症も心筋梗塞も、減少した冠動脈の血流量を回復させる必要があります。それにより、胸痛発作がなくなるため、日常生活制限が解除でき、生活の質(Quality of life:QOL)を向上させることができることや、心臓のポンプ機能の低下で生じる心不全の予防、生命予後の改善が期待できます。また、心筋梗塞での突然死を予防することで、死亡率が低下します。

冠動脈バイパス手術

手術以外の方法との比較

治療には、薬物療法、カテーテル療法、冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting: CABG)があります。
薬物療法では、血管を拡張させる硝酸薬や、心拍数や心臓の収縮を抑えるベータ遮断薬、冠動脈の攣縮(血管が縮んで細くなること)による発作を予防するカルシウム拮抗薬、冠動脈内に血栓が形成されて血管が詰まることを防ぐ抗血小板薬などが投与されます。しかし、今以上に冠動脈の血流量を増加させることはできません。
カテーテル療法は、冠動脈の中でバルーン(風船)を膨らませる「バルーン療法(いわゆる風船療法)」や、網状の金属の筒(ステント)を冠動脈内に埋め込む「ステント療法」、血管の狭い部位の動脈硬化(粥腫)が高度な場合には、ロータブレータという機器を使用して狭くなった部分を削るなど、カテーテルによって、狭くなった冠動脈を広げる治療法です。冠動脈バイパス手術と同じように心臓への血流を増加させることが期待できます。当院では患者様への負担が少ないカテーテル療法を優先して行っています。しかし、冠動脈の狭窄が同時に多数の枝にわたっていたり、左主幹部(左冠動脈の根本)病変、冠動脈の主要分枝の分枝部病変などではカテーテル治療が困難となります。そのため、これらは循環器内科と心臓外科で協議の上、冠動脈バイパス術の方が今後の生命予後が改善されると判断された場合に冠動脈バイパス術の適応となります。

手術の内容

冠動脈バイパス術(CABG)は、冠動脈の狭窄または閉塞している部分の先に、新たな血管(バイパス血管)を繋ぐことによって、心筋への血液供給量の不足を補う手術です。道路に例えると、渋滞した道路を迂回するために作られたバイパス道路のイメージです。 バイパス血管として使用する血管には以下のものがあります。

手術の内容

全身麻酔導入後、胸の真ん中(胸骨切痕から剣状突起)に縦方向に皮膚切開を加え、胸骨を胸骨のこぎりで切開します。その後、使用するためのバイパス血管の採取を行い、心膜という心臓を覆っている膜を切開した後、心臓表面を走行する冠動脈とバイパス血管の吻合を行います。

手術の内容

従来、吻合を行う前に、人工心肺(心臓と肺の働きを代行する装置:図)を装着した後、薬で心臓の動きを止め、心停止下に必要な部分にバイパス血管の吻合を行っていました(On-pump arrest CABG)。

手術の内容

当院では、基本的に(約70%)人工心肺は用いますが、心臓の動きは止めずに心拍動下でバイパス血管の吻合を行う、On-pump beating CABGを行っています。また、患者様の病態に応じて、人工心肺も用いずに、心拍動下でバイパス血管の吻合を行うOff-pump CABG(OPCAB)も積極的に行っています(約30%)。また、病態によっては胸骨を切開せずに小切開で冠動脈バイパス術を行う、低侵襲冠動脈バイパス術(Minimally Invasive Direct Coronary artery Bypass Grafting:MIDCAB 図)もあります。

手術の内容

人工心肺を使用すると、より質の高い吻合が期待できますが、人工心肺使用に伴う合併症(脳血管障害、腎障害、出血、心不全など)の危険があります。一方、Off-pump CABGでは人工心肺の使用に伴う危険を回避できるというメリットがあります。上記のように当院では、On-pump beating CABGを基本としていますが、担癌患者様や、脳血管や呼吸機能、腎臓に障害のあるハイリスクの患者様にはOff-pump CABGも積極的に行うなど、個々の患者様の状態に合わせた術式を選択しています。

冠動脈バイパス術には大きく分けて、3つの方法があります。

  1. 人工心肺を使用し心臓を止めて血管を吻合する
    心停止下冠動脈バイパス術:(On-pump arrest CABG)
  2. 人工心肺を使用するが、心臓を止めないで血管を吻合する
    人工心肺補助心拍動下冠動脈バイパス術:(On-pump beating CABG)
  3. 人工心肺を使用せず、心臓が動いたまま行う
    心拍動下冠動脈バイパス術:(Off-pump CABG)

当院の手術成績

当院での手術件数は単独CABGが年間70~90例であり、手術死亡率は約1%と良好な成績を得られています。また、術後入院日数は約2週間であり、早期退院を目指しております。

さいごに

カテーテル治療も冠動脈バイパス手術も、生活習慣病である動脈硬化そのものをなくす治療法ではありません。動脈硬化の進行によって、冠動脈あるいは手術したバイパス血管が、将来にわたって細くなったり詰まったりすることがあります。喫煙、脂肪の過剰摂取、肥満、運動不足、高血圧、高血糖などは動脈硬化を促進させますので、術後も生活習慣病を予防する日常生活の注意が必要です。